【数の魔力――数秘術から量子論まで】 (ルドルフ・タシュナー著/鈴木 直訳/岩波書店刊/2010)
2010.11.25 レビュー
著者はオーストリア人であり、現在は数学者として数学の啓蒙活動を行っている。 数学者が数秘術について書いた本は、海外であれば往々にして出版されているようだ。
本著において純粋に数秘術に割いている紙幅はそれほど多くは無いが、歴史上の8名の著名人を取り上げ、彼らと数字との関係性について実に深い考察を行っている。 その8人とは、ピタゴラス(数と象徴)、バッハ(数と音楽)、ホーフマンスタール(数と時間)、デカルト(数と空間)、ライプニッツ(数と論理)、ラプラス(数と政治)、ボーア(数と物質)、そしてパスカル(数と精神)である。
まず、おなじみのピタゴラスのところでは、ミレトスのタレスとピタゴラスとの関係に始まり、「世界は数で出来ている」という思想を持つに至った経緯の推測、「数の象徴学」についての様々な考察(三角数・四角数・奇数・偶数等)やそれらの数字の聖書との関わり合い、素数や魔方陣、更にはゲマトリアなど、数秘術を学習する上で通るであろう事柄も含めた様々な知識が登場する。
ピタゴラスの箇所のページ数はそれほど多くは無いのだが、数学的知識や歴史的事実、そして聖書等の文献を丁寧に照らし合わせて、極めて論理的に数秘術の解説を試みている。読み解いていくと、まだ数学と数秘術が渾然一体となっている時代に思いを馳せる事が出来る事だろう。
続くバッハのところは、音楽理論と数字との関係性についてこれでもかとばかりに音楽専門用語を駆使して説明している為、その方面の知識が無いと読解は困難を極めることだろう。 実際、中世クラシック作曲家の多くはバッハを初めとして数秘術的手法を用いて作曲を行っていた事が判明しているが、数秘術関係の記述は前半に集中しており、後半は数学的アプローチを試みている。
また、ボーアの箇所では、ヨハン・ヤーコプ・バルマーが水素が放射する光の波数を求める公式を数秘術的手法を用いて見つけ出した経緯について触れており、こちらも実に興味深かった。
それ以外の人物の箇所は正直言って難解に感じる部分も多くあり、バッハ程では無いにしても読解には時間を要する事だろう。そのような場合は是非とも最後にある訳者解説を読むと理解が深まるに違いない。
本著をもし占いとしての数秘術をマスターする為に購入したのであれば、望むような結果は得られないだろう。しかしながら学問としての数秘術をマスターする為には大いに役立つ内容となっている。複数回読んで、その内容をじっくりと把握していくと良いだろう。
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